契約書翻訳で良い訳文を作るコツがあるのをご存知でしょうか。そんな都合の良い話はないと思うかもしれませんが、意外と単純なことなのです。それは「徹底的に調べること」です。「何だそんなことか」と思うかもしれません。しかし、「徹底的」に調べるのは決して簡単なことではありません。では、「徹底的に調べる」とはどういうことか、いくつか例をあげて説明したいと思います。
・辞書を徹底的に調べる。
「調べる」というとインターネットや参考図書をすぐ思い浮かべる人がいるかもしれませんが、もっとも基本的な調査は辞書を引くことです。まず、辞書のその単語の意味をスミからスミまで調べて適訳を探します。また、辞書によって内容が違うので複数の辞書にあたります。
・背景を調べる。
単語の意味がわかっていても、その背景を理解して訳すのと、そうでないのとではやはり違いが出てきます。特に専門用語は、その背景を理解して訳さないと専門家が見るとどこかおかしな訳になってしまいます。また、分かりやすい訳文にするためには、背景を理解した上で若干の説明を加えるなどの工夫が必要になります。その際には、背景を正しく理解することが必須になります。
・用例を調べる。
その単語や表現の用例を調べます。これにはインターネットでの検索が威力を発揮します。たとえば英語の表現を検索し、同じ表現の英文をいくつか読んでいくうちに、大体の意味が推測できてくることがあります。また、日本語の表現についても、どういった表現が一般的か、正しい表現は何かを調べることができます。
・訳例を調べる。
『英文契約書の基礎知識』といった英文契約書に関する参考書には多くの訳例が載っています。契約書の表現は決まりきった表現やよく似た表現が多いので、こういった訳例は大いに参考になります。巻末の索引などを利用して徹底的に調べてください。受講生の中には、訳例を全てワープロに落として、検索機能でいつでも調べられるようにした人もいます。
・ウラを取る。
調査において重要なのは与えられた情報を鵜呑みにしないで、その裏づけを取ることです。辞書にも誤りがあります。また、インターネットの情報には信頼性に欠ける部分もあります。複数の出典を調べて、情報の信頼性を高めることが必要です。英和辞典で訳を探し、その意味を国語辞典で確認するといった作業も時には必要です。
・自分の訳文を調べる。
これは要するに見直しをするということです。自分の訳文をもう一度第三者の目でチェックし、意味が通じているか、矛盾がないか、読み手に誤解を与えないかを確認します。ちょっとでも疑問点が残った場合は何度でも辞書、インターネット、参考書等で再確認してください。
これらの点について注意して、徹底的に調べたとしても十分とはいい切れません。それぞれの要求されるレベルによって調べる手段や度合いは異なってくるからです。少なくとも、読み手に調査不足の訳文と感じさせないよう、できるかぎり調べるようにしてください。
(執筆:吉野弘人)