前号で法律(契約)英語からみた日本語の表現を説明しましたが、今回はその反対側から見てみます。
日本語で「訴訟」といえば裁判所に訴える意味を表し、「民事訴訟」、「刑事訴訟」、「行政訴訟(憲法訴訟を区別する場合もある)」という区分はありますが、「訴訟」という言葉は統一して使用されます。一方、法律英語は訴訟という言葉としてaction、suit、lawsuit、litigationが使われています。これらのなかには英米法の法源であるcommon law とequityの区別からきているものがあります。現在ではcommon lawとequityの区別が実務上なくなっていますが、歴史的に見るとcommon lawとequityとの分野で「訴訟」という言葉を異なったもので表現していました。
まず、actionですがこれはaction at lawと表現されることがあるようにcommon law courtに提訴する(take action)場合の「訴訟」(主として損害賠償請求事件)に使われていました。suitはsuit in equityといわれるように equity courtに訴える(sue)場合(主として差止請求事件)の言葉だったのです。この原則は現在でも存在していますが、たとえば、derivative suitと表現されていた株主代表訴訟に現在ではderivative actionという表現も見られます。
Lawsuitはcommon lawのlaw(つまりaction)にequityのsuitが合わされたもので民事訴訟の分野で幅広く使用されています。Litigationは法的手続きを含む「訴訟」という言葉として、complex mass tort litigationなどclass actionと同じように損害賠償請求事件にも使用されています。
今日ではcommon law courtとequity courtの区別がなくなったとはいえ、どの種類の訴訟にaction, suit, lawsuit, litigationの言葉を使用するかは判例法上、制定法上で決められていますので英文契約書を和訳するときは注意しなければなりません。
(執筆:通学担当講師)