契約が有効に成立するには、①申込み、②承諾および③約因が必要です。今回は、この契約成立の3つの要件について説明します。
agreement(契約)は、「合意」とも訳されるように両当事者の合意事項を定めているものです。この合意は、申込者の「申込み」と被申込者の「承諾」によって形成されます。「申込み」という行為は日常生活でも見られます。所定の書式で行なう注文(書面)や、窓口で「○○を購入したい」と申し出ること(口頭)、さらにはレジに商品を持っていき代金を支払うといった行動(行為)も申込みにあたります。一方、「承諾」とは、この「申込み」に対し受諾の意思を表明することです。「承諾」も「申込み」と同様、書面、口頭または行為によりなされます。コモンローの下では、「承諾」は、明確かつ無条件でなされなければならないとされています。「申込み」に付されていた条件を変更して承諾することは「承諾」ではなく「カウンターオファー」とみなされます。
たとえば、Aが「100万円で機械を売ります」という「申込み」に対し、Bが「99万円なら買います」ということは、Bにより「99万円で買います」という新たな「申込み」がなされたものとみなされ、当初の申込人であるAが「わかりました、99万円で売ります」という承諾をしなければ、合意が形成されたことにはなりません。
一方、「約因」は英米法に特有の概念です。Black’s Law Dictionaryでは、considerationを”Something of value received by a promisor from promisee. Consideration is necessary for an agreement to be enforceable”と説明しています。また、英米法辞典(財団法人東京大学出版会)では「Considerationは、契約を構成する約束に拘束力を与える根拠であって、promisor(約束者)に生じた権利もしくは利益、または promisee (受約者)が与え、被りもしくは引き受けた不作為、損失もしくは責任である」としています。たとえば、「100万円で機械を売ります」という申込みに対し「買います」という承諾をしたとします。この場合申込者の約因は対象となる機械の引渡しであり、被申込者の約因は代金100万円の支払いです。つまり、この場合の約因とは、一方は機械を失い、一方は100万円を失うという「損失の交換」ということになります。「100万円で機械を売ります」という「申込み」、「買います」という「承諾」、そして機械と代金の交換という「約因」の3つの条件が満たされて、契約が執行可能(enforceable)になるのです。
「約因」については、なかなか理解が難しいかもしれませんが、英文契約書を訳すときには何が約因なのかを注意してみると少しずつわかってくるかもしれません。できたら、心がけてみてください。
(執筆:吉野弘人)