契約書翻訳では、法律用語ばかりでなくいろいろな分野の専門用語が出てきます。その中でも特に多く出てくる金融や会計に関する用語を訳す場合に、注意すべき点を説明します。
loanという単語は、特に難しい単語ではありませんが、皆さんはどんな訳をあてるでしょうか。「貸出金」「借入金」「ローン」「融資」など、いくつかの訳を思いつくでしょう。ただし、このうち「貸出金」と「借入金」という訳は、その文の主語が誰なのかという点に注意が必要です。「貸出金」はあくまでも貸し手の側からみた表現で、一方、「借入金」は借り手の側からみた表現です。loanに常に「貸出金」という訳語をあててしまうと、「借り手は○月○日までに貸出金を返済しなければならない」という奇妙な訳になってしまう可能性があります。行為の主体によって「貸出金」と「借入金」を訳し分け、「借り手は○月○日までに借入金を返済しなければならない」としなければなりません。また、定義語のように訳し分けることができない場合は、主体が誰であるかに左右されない「ローン」や「融資」といった訳語を選択することになります。
同様にleaseという単語にも注意が必要です。「リース」「リースする」というカタカナ表現が一般的になっていますが、この用語もloanと同じように「賃貸」「賃借」の両方の意味があります。たとえばlease agreementは、一方当事者が「賃貸人(lessor)」もう一方の当事者が「賃借人(lessee)」となる契約なので、単に「賃借契約」「賃貸契約」とするのではなく、双方の立場に立った「賃貸借契約」という訳語を選択しなければなりません。また、動詞としてleaseという単語が出てきた場合は、「借りている」のか「貸している」のかを文脈から正しく判断しないとまったく逆の意味になってしまいます。こういった表現については、状況に応じて訳を工夫することで、よりこなれた訳文とすることも可能です。たとえば、the products sold to the Licenseeという表現は、直訳すると「ライセンシーに販売された製品」となりますが、売買という表裏一体の行為であることを考慮すれば「ライセンシーが購入した製品」と、よりこなれた表現になります。
会計や金融に関する行為は、バランスシートの貸方と借方に分けられるように、その多くが表裏一体となっています。こういった行為を表す英語自体は、決して難しいものではありませんが、用語の背景を正しく把握しないと的確に訳すことができません。やさしい単語だからといって油断すると、大怪我をすることもあります。英文契約書は慎重に訳すように心がけてください。
(執筆:吉野弘人)