通信教育の添削チェックシートの中に「語句レベルの創作訳」「センテンスレベルの創作訳」という項目があります。創作訳とは、辞書にない訳語や実際には使われていない用語を創ってしまうことをいいます。契約書翻訳に限らず、どの分野であっても原則として創作はいけません。小説などを書くのとは違い、翻訳では創造力があまり必要とされません。あくまでも実際に使われている言葉の中から、適訳を探し出すことが求められます。
一方で、創造力ではなく、想像力を働かせることは翻訳においても必要です。特に辞書にぴったりの訳語がなく、インターネット等で探す場合には想像力が役立ちます。以前、映画のノベライズ本の出版契約でbillingという単語が出てきました。billingというとすぐ「請求」「請求書」が浮かびますが、本のカバーにbillingを表示しなければならないというので、どうもこの場合は違うようです。試しにインターネットで「映画+ビリング」を検索してみたら、「ビリング(ポスター、ちらしなどに表示する映画の出演者やスタッフの表記のこと)」という映画用語がありました。実は改めて辞書を引いてみたら、インターネットを使うまでもなく確認できたわけですが。ある程度の推測を交えて訳語を探したり、手がかりが少なかったりするときにインターネットは非常に有効です。ただし、単なる推測や想像だけではなく、きちんと裏付けをとってから訳語を選択してください。裏が取れない訳語は創作訳です。しっかりと裏取りして、適訳を見つけましょう。
また、英文契約書の翻訳では、条項の背景や条文起草者の意図を把握するように努めると訳文に深みが出てきます。理解できた上で訳した場合と、そうではなく表面的にただ訳した場合は、専門知識のある人にはすぐに見抜かれてしまいます。それぞれの条項がどういった状況を想定しているのか、条項の有無が当事者にどのような影響を与えるのかといった事情を想像し、調べたうえで翻訳するように心がけてください。
翻訳をする上で想像力を働かせることは、適訳をあてるための有効な手段となります。わからないことは徹底的に調べなければなりませんが、そのためのツールの一つが想像力といえるでしょう。皆さんも想像力を駆使して、よりよい訳文に仕上げてください。
(執筆:吉野弘人)