満了・解除・終了

英文契約書翻訳において、terminationは文脈により訳し分ける必要のある用語で、「満了」「解除」「終了」といった訳語があてられます。満了は契約の効力が期限において消滅することを意味し、英語ではterminationのほかに expiry、expirationも使われます。これに対し、解除は期限前における契約の効力の消滅を意味します。同じ意味で解約という用語を使う場合もあります。法学上は、契約締結までさかのぼって効力を消滅させることを解除といい、その時点から将来に向かって効力を消滅させることを解約といいます。しかし、法令などでも必ずしも厳密には使い分けされておらず、解約の意味で解除としている例もみられるので、訳としてはいずれの場合も解除としてかまいません。

終了には、満了と解除の両方の意味があります。たとえば、英文契約書で「契約のtermination後も秘密を保持する義務を負う」という条件が書かれている場合、秘密保持義務を負うのは契約満了後だけではなく、解除されたときも含みます。したがって、この場合のterminationは終了とし、満了・解除両方の意味を持たせるようにします。

解除という表現の使い方にはもう一つ注意が必要です。それは、「解除する」という動詞は目的語を伴う他動詞であり、「当事者が契約を解除する」という表現はできますが、”this Agreement shall automatically terminate (prior to the expiration date)”というような場合、「契約が自動的に解除する」とはできません。この場合のterminateは自動詞なので「契約が自動的に終了する」というように「終了する」という訳語を選びます。terminateという動詞は、他動詞なのか自動詞なのかで訳語の選択も違ってくるのです。

このように文脈に応じて訳し分ける場合、訳語の日本語としての意味や法律上の背景、さらには用例までも調べなければなりません。難しいところですが、契約書翻訳では、辞書の訳語に頼らず、しっかりと調べて訳語を選択するよう心がけてください。
(執筆:吉野弘人)