契約書翻訳の通信教育の答案で多く見受ける間違いの一つにlicenseの訳があります。licenseは英文契約書に頻出する基本用語の一つでもあるので、しっかりと理解しておく必要があります。
licenseは動詞としては「(権利を)付与する」「(権利を)許諾する」と訳します。名詞として訳す場合、「ライセンス」「権利付与(供与・許諾)」とともに多く見受けられるのが「実施権」という訳です。「実施権」でも間違いではないのですが、この訳語を選択する場合は、もう一度その訳語の意味やそのライセンス契約の背景について確認する必要があります。licenseは、特許や実用新案、意匠においては「実施権」といいますが、商標やソフトウェアにおいては「使用権」といい、使い分けがされています。したがって、「実施権」という訳語が使えるのは、特許や実用新案に関するライセンス契約の場合に限られるのです。これらの違いはそれぞれの法律の条文をみるとよくわかります。たとえば特許法第77条は専用実施権、78条は通常実施権について定められています。一方で、商標法をみると、第30条に専用使用権、第31条に通常使用権が定められています。このように権利の対象によってその名称が異なるため、実際に法律で使われている適切な用語を正しい場面で使うことが求められるのです。ただし、実際に翻訳する際には「ライセンス」という訳語を選択することをお勧めします。「ライセンス」という訳語であれば、どの場面にも使うことができるので、ライセンスの対象が何かというところまで気を使う必要がなくなるからです。
licenseというなにげない単語ですが、このように用語の背景もしっかりと調べて訳さなければなりません。辞書に出ている単語にすぐに飛びつくのではなく、国語辞典、法律用語辞典などで訳語(日本語)の意味をもう一度確認し、英文契約書の場面に応じた適切な訳語を選択するように心がけてください。
(執筆:吉野弘人)