injuryとは?

先日、翻訳者の方から「人的損害」の訳として、personal damageとpersonal injuryとの、どちらを英文契約書で使ったらよいかというご質問を受けましたので、説明してみたいと思います。

製造物責任法第1条の「製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における」の部分について、日本法令外国語データベースでは、”[to protect the victim of] the injury to life, body, or property which is caused by a defect in the product”と訳されています(2010年9月時点での訳)。

契約書でたびたび登場する「生命、身体その他の財産に対する損害」の英訳としては、”damage to life, human bodily injury or other damage to property(またはproperties)”が一般的に用いられます(damage to lifeの部分はdeathとしても結構です)。

personal injuryには、「人身損害(bodily injury)」、つまり「傷害」という意味と、財産権以外の「個人的な権利に対する被害」の意味とがあります。前者については、「人身損害」の意味に限定されることを明確にするために、personalやhumanがbodily injuryの前に置かれることがあります。また、後者には、名誉毀損がその例として挙げられ、bodily injuryが含まれます。

「けが」のイメージが強いinjuryですが、法律上は、「権利侵害」や「被害」「損害」という意味でよく使用され、他人の生命、身体、名誉、財産に対する侵害行為やその結果発生する被害全般をカバーします。

「損害」というと、damageという語がどうしても頭に浮かんでしまいますが、injuryは侵害行為や被害そのものだけを指すのに対し、damageは必ず金銭に算定される経緯(つまり、損害賠償金としてのdamagesが成立すること)が必要とされます。つまり、injuryは、損害賠償金であるdamagesとは切り離された概念といえます。

最初の質問の答えに戻ると、内容からして、損害賠償を主目的にしている文であればpersonal damageとなる可能性がありますが、「損害が発生したかどうか」が問題になっているのであれば、personal injuryが使用されます。事故や欠陥や不具合が起きてしまったという話しであれば、personal injuryに、その後、損害賠償の支払い関係の話になるのであればpersonal damageになるというわけです。
(執筆:飯泉恵美子)