2010年度秋期通学講座の英日契約書翻訳中級コースで教材に使用したProperty Management Agreement(プロパティマネジメント契約書)の中の例文と受講者の訳例を引用して、英文契約書の翻訳で問題の多いotherの訳し方を考えてみたいと思います。
【例文1】
Manager shall use reasonable and diligent efforts, including, without limitation, generating tenant invoices, to enforce the terms of all leases and licenses and to cause Owner to receive security deposits and all rents, including percentage rents, and all other revenues, including reimbursables, payable to Owner from the Property as the same become due and payable.
上記におけるsecurity deposits and all rents, including percentage rents, and all other revenues, including reimbursablesの部分の訳例を紹介します。
【訳例1-1】
「保証金、歩合賃料を含む全賃料および償還金を含むその他の全収入」(受講者Aさん)
【訳例1-2】
「敷金および歩合賃料を含む全ての賃貸料ならびに返済金を含むその他の収益など」(受講者Bさん)
【訳例1-3】
「歩合家賃その他の収益を含む、敷金および家賃一切」(受講者Cさん)
Aさんは、「ならびに」の使用を避けるためにsecurity depositsとall rentsとの間のandを訳出しなかったのでしょうが、記載されているものの関係が分かりにくい訳になっています。ここでは、保証金(敷金)は収益ではないことに注意する必要があります。
Bさんの訳では、「ならび」と「および」の使い方を誤って、構文上「敷金」も「賃貸料」に含まれることになってしまいます。
Cさんの訳では、percentage rentsをrevenuesの例示と解釈したため、「敷金」には「歩合家賃その他の収益」を含むことになってしまいます(さらに、including reimbursablesの訳抜けがあります)。英文の構文解析に当たっては文法に頼るだけではなく論理的な思考を必要とするゆえんです。残念ながら、受講者の訳でこの部分(payable以下の部分を含めて)を正確に訳したものはありませんでした。
ここで、法令における「その他の」と「その他」の用法を確認してみます。「その他の」は、「その他の」の前にあるものが「その他の」の後にあるものの例示である場合に用いられ、「その他」は、「その他」の前にあるものが「その他」の後にあるものと対等並列の関係にある場合に用いられる、というのが法令上の基本的な用法です。しかし、日常用語では、両者が混同して用いられているようです。
例文1では、and all otherの前にあるrentsはrevenuesの例示ですから、「and other」の訳に法令用語の「その他の」を用いれば、次のように「ならびに」を使わずにsecurity deposits以下を簡潔に訳すことができます。
【訳例1-4】
「保証金およびすべての賃料(歩合賃料を含む)その他のすべての収益(立替経費を含む)」
(次回に続く)
(執筆:西田利弘)