日本の法律用語のひとつに「みなす」と「推定する」とがあります。「みなす」は、ある事柄(物)と性質の異なる他の事柄(物)とを一定の法律関係について同一のものと考えることを示します。ですからこの「みなす」には反証を認めないということになります。一方、「推定する」は、ある事柄について事実等の存在が不明確である場合に、一応その事実等が真実なものとして、その法律効果を認めることとされています。それゆえ、反証が認められます。
「みなす」の例として有名な条文に民法866条「胎児の相続能力」があります。この条文は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」というものです。つまり、自然人の権利能力は民法1条の3「権利能力の始期」で「私権の享有は出生に始まる」としているのを、相続について(相続は私権のひとつ)、出生前の胎児に対し、権利能力を認めるということを規定しているのです。だから、相続について民法1条3の規定を証拠にして胎児は生まれていないから相続権がないと主張・立証しても認められない(反証を認めない)ということになります。
「推定する」の例としては、商法205条2項があります。この条文は「株券の占有者は之を商法の所持人と推定する」と規定しています。つまり、株券を持っている(占有している)者は、一応商法な所持人と認めるが、その株券が盗難にあったもので、真の所有者が現れその事実が立証されれば、推定されていた事実が覆ることになる(反証を認める)のです。
さて、「みなす」「推定する」ということを理解したうえで、これらに対する英語の表現をみてみましょう。一応、「みなす」「推定する」に相当する言葉として、
be deemed to be considered to be treated to |
be held to be regarded to be presumed to |
が挙げられます。これらのうち、be deemed toは約70%位「みなす」に使用され、be presumed toが90%位「推定する」に使用されているようです。残るものは、状況により「みなす」に使われたり「推定する」に使われたりまちまちです。つまり、英米法には日本法のように明確に法律用語として区別をしていないようです。ただ、契約書では、契約状態の安定性を重要視していますので、特別のことがない限り「みなす」と訳してよいでしょう。
なお、be held toは、裁判所が「判示する」という意味に使用されることがあり、その他のbe considered to, be treated to, be regarded to, も前後の関係から必ずしも「みなす」と訳さない状況があることを念頭に置いて訳してください。
(執筆:宮野 準治)