I. 用語の解説
promptlyとwithout delay:without delayを「遅滞なく」と訳した方が多く見受けられましたが、一義的には「直ちに」と訳します。これに対し、without undue delayが「遅滞なく」にあたりますので混同しないようにしましょう。また、promptlyは、「直ちに」と「遅滞なく」の両方の意味に使われます。ここは、当事者の義務に関する表現ですので、「直ちに」と訳す方が良いでしょう。この「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」は、重要な法律用語ですので、しっかりと整理しておいてください。
II. 翻訳のスキルの一つ「辞書の活用法」
提出された皆さんの答案を見てきて、やはり語句レベルの間違いが多いように思います。理由はいろいろあると思いますが、調査不足ではないかと思われるケースが散見されます。翻訳のスキルの中でも、「調べる」ということは最も重要なスキルです。これには、図書館やインターネットで調べるということも含まれますが、基本は辞書で「調べる」という事です。辞書の活用の仕方について、以下にポイントを上げておきますので、参考にしてください。
(1) 知っている語句も必ず辞書を引く 知っている語句も決して記憶に頼らず、できるかぎり辞書を引いて確認するようにしましょう。 (2) 辞書の訳語の全てに目を通す 適切な訳語を選び出すためには、代表的な訳語に満足せず、すべての訳語に目を通すことが必要です。 (3) なるべく多くの辞書を調べる 辞書によって特徴があり、複数の辞書を調べる事で適訳が見つけられる事があります。特に専門用語辞典などは、複数揃えておいた方が便利です。(例:loss or damageもちゃんと載っている辞書があります) (4) 英英辞典を活用する 適訳が見つからない場合は、英英辞典にあたるのも一つの方法です。本来の意味をつかむ事によって適訳が得られる事もあります。 (5) 辞書に頼りすぎない 一部の辞書を除き、辞書は改訂までにかなりの年月を要します。これでは、本当に生きた英語が収録されているか疑問です。このためにも多くの辞書や、参考文献などをあわせて利用する事が大切です。 |
当たり前のことばかりで、既に実行している方も多いことでしょう。「辞書も実力のうち」、「辞書はお金で買える実力」と言われます。辞書を十分に活用する事が良い訳文を作るための第一歩です。がんばってください。
(執筆:国吉 晶二郎)