「和議」と「民事再生」について

Q:「今まで和議と訳していたのを民事再生と訳してください」といわれたけれど、民事再生って一体何のことですか?

A:Arrangementは、契約書では約定、取り決めなどの訳語を当てますが、ほかに和議という意味があります。しかし平成12年4月1日から和議法がなくなり、その代りに「民事再生法」が施行されました。「4月以降は和議と訳さず民事再生と訳しますので注意しましょう。」と解説に書かれていたことを皆さん覚えていらっしゃると思います。でも、どんな場合にもarrangementを民事再生と訳してよいというのではないことはいうまでもないことです。「賃貸借契約以外にいかなるagreement, contract, arrangementの締結もなされていない」と記載されている場合に、「合意、契約、民事再生」(時々このような訳をみかけます)と訳すとクライエントはびっくりしてしまいます(ここでは「約定」と訳します)。では、民事再生とは何か、また和議とどう違うのかをご説明しましょう。

民事再生の主な目的は、企業倒産手続きの迅速化を目指し、倒産に伴う資産の劣化や従業員の離散をくい止め、企業の早期の再建を促進することです。民事再生は、再建型の法的処理であった、「会社更生」「会社整理」「和議」のうちの「和議」に代わるものであり、「会社更生」よりも手続きが簡素化されています。民事再生手続きは、債務者に経営権を委ねる(従前の経営者が引き続き経営できる)という和議手続きの基本を承継しつつ、和議手続きの問題点を改正した内容となっています。

和議と異なる点

1. 和議法では、破産原因がなければ裁判所に対し和議の申立てができない上に、申立ての時点で和議条件を提示しなければならず、また一旦提示した和議条件は変更できなかったなど、使用しにくい点が多かったのですが、民事再生法では、現に債務超過や支払不能といった破産原因が発生していなくてもその虞があれば民事再生手続きの申立てができます。
2. 1~ 2週間の短期間のうちに開始決定がなされますが、その間でも会社資産が散失するのを防ぐため、弁済禁止や処分禁止、借財禁止の保全処分が裁判所により出されるのが常であり、これにより債務の弁済が猶予されるため、資金的に行き詰まっている企業の資金繰りを一時的にせよ楽にする効果があります。
3. 再生計画案の可決要件については、民事再生では、債権者集会の出席債権者の過半数かつ債権総額の50%以上(和議では75%以上)の賛成で足ることとなり、なかなか債権者の同意が得られなかった和議に比べ、再生が容易となりました。
4. 再生計画認可後、この計画通りに履行されなかった場合には、債権者による強制執行が可能となります(和議法においては、債務者が和議計画を履行しなかったとしても処罰、制裁がありませんでした)。

倒産状態に陥った企業では、取引先の信用を失い、優秀な従業員が散逸するなど急速に体力を弱めることが予想されます。傷の浅い早い時期に手続きに沿ってすばやく処理できる民事再生手続きの申請が、ほとんど利用されていなかった和議手続きと異なり、その施工後2カ月で100件を超えたというのも納得のいくことだと思います。中小企業などに再建しやすい法的枠組みを提供するために改正された民事再生手続きの開始を大企業である「そごう」が申請したことを考えても、民事再生手続きが今の時代に適した迅速な処理による再建型の法的処理と言えるでしょう。すべての法人、個人が利用できる民事再生は、意外と私たちの生活に身近な手続きなのです。