「仲裁」について

「この紛争が両当事者の協議により解決できない場合には○○○仲裁協会の仲裁規則に従い○○○での仲裁により解決する」といえば英文契約書でおなじみの「紛争解決」条項ですね。今回は、この仲裁を取り上げてみたいと思います。仲裁手続きは、まず仲裁機関へ申立てることから始まりますが、当事者間の合意に基づく私的な紛争解決手段であるため、裁判が一方当事者だけで裁判所に訴えることができるのとは異なり、仲裁を開始するためにはまず当事者間の合意が必要となります。そのうえで、当事者が合意した仲裁機関、仲裁規則に従い、当事者間の合意による仲裁人により審理が行われます。仲裁は、当事者間の合意に基づき選択された仲裁規則に従い手続きが進められますが、この点においても法に基づき当事者の主張と立証を踏まえ紛争解決される裁判とは異なります。裁判を担当する裁判官は、必ずしもその分野の専門家ではない場合があるのですが(それ故に裁判官は担当する事件ごとに猛勉強しているのです)。仲裁の場合には、その分野の専門家を仲裁人に選任することにより、高度な専門技術についての知識を要する事案においても専門家としての判断を求めることができるのです。また、裁判は公開の場で行われますが、仲裁は非公開のためノウハウや企業秘密を保護することができます。それ故にライセンス契約書における紛争解決は仲裁に委ねることが適していると言えるでしょう。ただ裁判においては、納得のいかない判決が下された場合、上訴することができますが、仲裁は一審制のためその判断は最終的であり、拘束性を有することになります(時々、「拘束性を有さない」と定められていることがあります)。

仲裁地をどこにするか、仲裁人をどのように決めるかは当事者にとって重要な問題ですが、仲裁人を3人にする場合には、各当事者から1人ずつ選任し、この2 人により3人目の仲裁人を選任するのが一般的な方法(この方法は、英文契約書でよくみかけます)です。10年余り前に、IBMと富士通間に紛争が生じ、アメリカ仲裁協会の仲裁に委ねられたことはご存知の方も多いことと思います。仲裁地を自国とした方が費用負担一つをとっても有利なことは容易に察しがつくことですが、当事者間の力関係もあり、なかなか思うようにはいかないようです。

代表的な仲裁機関として、国際商業会議所(ICC; International Chamber of Commerce)、ニューヨークに本部を有するアメリカ仲裁協会(AAA : The American Arbitration Association)、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA; The London Court of International Arbitration)、また日本においては、国際商事仲裁協会(JCAA; The Japan Commercial Arbitration Association)がありますが、こうした仲裁機関で得た仲裁判断を執行するためには、裁判所の執行判決が必要となります。この場合、準拠法が問題になるのですが、日本とアメリカとの二国間条約では、仲裁判断がなされた地の法によるとされています。また、ニューヨーク条約の下では、①当事者が明示的に指定した法、②仲裁人が仲裁手続きにより決定した法、③仲裁判断が行われた地の法の順となっています。 この紛争解決条項は、内容が大体わかっているので翻訳するのは楽なのですが、時にだらだらと長い文章で訳し辛いことがあります。でもこうした内容をよく理解しておくと、いかに複雑な構文であっても、もう困らないと思います。