「準拠法」と「統一商法典」について

英文契約書でおなじみのGoverning Law(準拠法)と統一商法典(UCC)についてご説明しましょう。

契約当事者は、契約にさまざまな事項を定めるのですが、それで全てをカバーできているわけではなく、契約に定めのない事項については、その解釈の基準として適用される法律が必要です。準拠法とは、その解釈基準として適用されるある国(州)の法のことを言います。国際取引契約においては、当事者の国籍が異なる上に世界の共通法が存在しないため、解釈基準としてどこの国の法を適用するかを決めなくてはなりません。原則的には、契約当事者は、どこの国の法を準拠法としてもよいのです。日本の会社とドイツの会社との契約において、準拠法をカリフォルニア州法にすることもできるのです。

米国の場合は、カリフォルニア州法やニューヨーク州法といったように州法が準拠法となることは皆様もよくご存知のことと思います。米国では各州が主権国家のように独立しているのですが、複数の州にまたがって商取引が行われる場合には、このように各州の法が異なることにより不都合が生じることもあります。そこで商事取引に関する法を全米で統一させた制定法(Statutes)が統一商法典(UCC)なのです。UCCは、連邦法ではなく統一州法委員全国会議(National Conference of Commissioners on Uniform State Laws)とアメリカ州議会で採択し、州法に取り入れるという方法がとられました。UCCはルイジアナを除く全ての州とコロンビア特別区で採択されており、数ある統一法の中で最も成功した例といえます。

米国では、ほとんどの契約は、コモンローに従うことになるのですが、物品売買契約だけは、UCCの第2編の規定に従う(物品売買契約でも、UCCに規定のないものはコモンローに従います)のです。英文契約書の大文字(責任や保証の排除、制限を定める場合、米国ではほとんどの州法で、「大文字、赤字、イタリック書き」とするが求められています)で書かれた個所をよく「明示、黙示、制定法その他を問わず、商品性および特定目的への適合性……黙示の保証を明確に排除する」のように訳すことがありますね。UCCの§2-315では、「売主がその物品に要求されている特定の目的……売主の技能や判断力に信頼していることを知るべき理由を有する場合には、次条で排除もしくは変更されない限り、その物品が目的に適合するものであるという黙示の保証が存在する。」規定されていることに関係しているのですが、こうした背景知識があると、ここに「制定法」が出てくる理由も容易に理解できると思います。どんな分野の翻訳にも当てはまることですが、背景知識があると全体を把握した上で訳文作成にとりかかることができるのです。