法律用語と行政用語

契約書翻訳においては、法律用語を正しく使うことが重要です。その際に注意すべき点は、法律用語と行政用語を混同しないことです。

まず代表的なものとして「許可」という言葉があります。「許可」を法律用語辞典で調べると、「行政法上は、法令による特定の行為の一般的禁止(不作為義務)を特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行政行為をいう。(有斐閣法律用語辞典[第2版])」とされています。つまり「許可」という行為は行政行為なので、契約の一方当事者が他方当事者に対し「許可する」ということはありえないのです。したがって、allow、approve、 permitなどに「許可する」という訳語を安易にあててはいけません。行為の主体が私人の場合には、「承諾する」「許諾する」「認める」「同意する」などの訳語をあてます。

同様に「認可」「免許」「承認」といった用語も、本来は行政用語なので注意が必要です。「承認」という用語は、最近、一般の企業でも使われるようになってきました。しかし、行政行為の名残なのか、上の者が下の者の行為を認める、というニュアンスが残っています。したがって、契約当事者間の行為としてはやはりふさわしくなく、上席者が部下の行為を認めるといったように上下関係が明確な場合以外には使わない方がよいでしょう。

これらの用語は、実際の行政行為として契約書の中に使われることもあります。その場合、英文ではpermitであっても、個別の行政行為として「許可」なのか、「認可」なのか、「承認」なのかをしっかりと調べたうえで訳語をあててください。運転免許であって、運転許可や運転認可ではないことからもこのことがわかると思います。

このように、法律用語と行政用語は似て非なるものです。それぞれの用語の意味やニュアンスをしっかりと調べたうえで、正しく使うようにこころがけてください。
(執筆:吉野弘人)