insolvency

英文契約書の解除に関する条項では、破産を解除事由の一つとするのが一般的ですが、破産の前段階として、insolvencyも解除事由とされます。

このinsolvencyは、「支払不能」または「債務超過」を意味します。支払不能とは、債務者に返済能力がなくなり、債務の返済ができなくなる状態をいいます。一方、債務超過とは、負債の合計額が資産の合計額を上回る状態をいい、別のいい方をすると、すべての財産を処分しても、負債を返済することができなくなってしまう状態のことを指します。支払不能が債務者の支払能力全般に注目しているのに対し、債務超過は債務者の財産にのみ注目している点に違いがあります。

債務超過と支払不能の共通点は、いずれも破産原因となるという点です。破産法では、破産原因について次の通り定めています。「債務者カ支払ヲ為スコト能ハサルトキハ裁判所ハ申立ニ因リ決定ヲ以テ破産ヲ宣告ス」(破産法126条)。
「法人ニ対シテハ其ノ財産ヲ以テ債務ヲ完済スルコト能ハサル場合ニ於テモ亦破産ノ宣告ヲ為スコトヲ得」(破産法127条)。前者は支払不能について、後者は債務超過について定めています。

他に破産の原因となるものに支払停止があります。支払停止は、債務者が債権者に対し、明示または黙示的に債務の支払いができないことを表示することをいいます。最も一般的なのは、手形・小切手の不渡りです。破産法126条2には、「債務者カ支払ヲ停止シタルトキハ支払ヲ為スコト能ハサルモノト推定ス」と定められており、支払停止となると、支払不能の状態にあると推定されるので、支払停止も広い意味での支払不能ということができます。

契約書翻訳において、insolvencyの訳は「債務超過」「支払不能」のどちらでも正解ですが、文脈によっては、上記の違いや法的な背景を正しく理解して訳し分けることも必要になります。
(執筆:吉野弘人)