英文契約書において、一方当事者が契約違反を冒した場合、他方当事者はこれに対して何らかの法的な救済手段(remedies)を求めます。救済手段は、大きく分けるとコモンロー上の救済手段とエクイティ上の救済手段に分けることができます。
契約違反に対する最も一般的な救済手段は損害賠償請求ですが、損害賠償請求は、コモンロー上の救済手段であり、事後的に金銭によって行われる救済です。しかし、違反の内容によっては、金銭では解決できない場合や事前に被害が広がることを防がなければならない場合があります。このような場合に効果があるのが差止命令(injunction)です。たとえば、競合相手が商標権を侵害しているような場合は、事後的に損害賠償を請求するよりも、ただちに侵害している商標の使用をやめさせることが有効な対応策となります。このように一定の行為をやめさせるよう裁判所に命令を出させることを差止請求といいます。
injunctionには、契約上の義務を履行することを求める場合もあり、このようなときには作為命令とよばれます。injunctionは、エクイティ上の救済手段であり、コモンロー上の救済手段である損害賠償請求を補うものとして位置づけられています。
差止請求のほかに利用されるエクイティ上の救済手段として特定履行(specific performance)があります。特定履行は、名誉毀損などに対する名誉回復措置として、新聞紙上での謝罪広告といった形で行われます。
これらの救済手段は、それぞれが独立して行われることもありますが、名誉毀損の記事に対し、記事の掲載差止め、損害賠償請求、謝罪広告の請求といった具合にすべての救済手段を求めることも可能です。「コモンロー上の」、「エクイティ上の」というととっつきにくい印象がありますが、このような具体的な例を頭に浮かべるとわかりやすいのではないでしょうか。
(執筆:吉野弘人)